ネットワークのトラブル対応で、
- プリンターに繋がらない
- IPアドレスは合っているのに印刷できない
といった場面はよくあります。
このようなときに、IPアドレスの確認(ping)の一歩先にある強力な味方となるのが ARP(Address Resolution Protocol / アープ) です。ARPの情報を読み解くことで、プリンターがネットワーク上に「物理的に」存在しているのか、あるいは別の機器が邪魔をしているのかを正確に判断できるようになります。
この記事では、ARPの基本から具体的な確認方法までを詳しく解説します。
ARPとは:IPアドレスとMACアドレスを繋ぐ「名簿」
ネットワークの世界には、住所が2種類あります。一つは人間が管理しやすい 「IPアドレス」、もう一つは機器そのものに刻まれた世界に一つだけの背番号 「MACアドレス」 です。
LAN内で実際にデータを届ける際、コンピューターは最終的にこの「MACアドレス」を宛先として通信を行います。しかし、私たちは通常IPアドレス(例:192.168.1.50)しか知りません。そこで、「IPアドレスからMACアドレスを自動的に調べる仕組み」が必要になります。
これが ARP(アープ) です。
PCがプリンターに通信しようとする際、内部では次のようなやり取りが行われています。
- PC: 「IPアドレス 192.168.1.50 の人、あなたのMACアドレスを教えて!」(ARPリクエストを放送)
- プリンター: 「私です!私のMACアドレスは 00-1a-2b… ですよ」(ARPリプライで応答)
- PC: 「了解。この対応をメモしておこう」(ARPテーブルに保存して通信開始)
この一時的に保存された対応表を 「ARPテーブル」 と呼びます。トラブル対応では、この表が正しく更新されているかを確認することが決定的な鍵となります。
想定するネットワーク構成
今回の解説では、以下のような一般的でシンプルな小規模オフィス・家庭内LANの構成を想定します。
[ PC ] ── [ ルータ ] ── [ プリンター ]
(同一LAN)
※PCとプリンターが異なるルーターを越えた先にいる場合、ARPの仕組みは直接適用されません。まずは同じネットワーク内にいることを前提に進めます。
なぜプリンターに繋がらないのか?ARPで切り分ける理由
プリンターに繋がらない原因は多岐にわたりますが、多くは以下のいずれかに分類されます。
- 物理的な遮断: 電源オフ、LANケーブルの未接続、Wi-Fiのリンク切れ
- 情報の不一致: プリンターを買い替えた、または別の機器に同じIPアドレスが割り当てられた(IPアドレスの重複)
- 設定の壁: セキュリティソフトやWindowsファイアウォールによる通信拒否
ping」が通らない(応答がない)だけでは、これらのどれが原因か特定できません。しかし、ARPを確認すれば、「相手から物理的な応答(MACアドレスの通知)があったかどうか」が分かります。これは「返事はないが、そこに居ることは分かっている」のか、「そもそも居ない」のかを判断する大きな違いになります。
手順1:pingを実行する
ARPテーブルに最新の情報を載せるために、まずは対象のIPアドレスに対して ping コマンドを実行します。
ping 192.168.1.50
このとき、たとえ 「要求がタイムアウトしました」 と表示されて応答が返ってこなくても、今の段階では問題ありません。重要なのは、pingを打つことでPCが「ARPリクエスト」をネットワークに投げ、相手を探そうとしたという事実です。
手順2:ARPテーブル(arp -a)を確認する
次に、PCが記憶しているARPテーブルを確認します。
arp -a
実行すると、現在PCが認識しているIPアドレスとMACアドレスの一覧が表示されます。ここでプリンターのIPアドレス(192.168.1.50)を探し、その横の「物理アドレス(MACアドレス)」に注目しましょう。
インターネット アドレス 物理アドレス 種類
192.168.1.50 00-1a-2b-3c-4d-5e 動的
ARPの結果から分かること:3つのパターン
① IPとMACアドレスが正しく表示される場合
診断:プリンターはLAN上に存在しており、物理的な通信は可能です。
pingが返ってこないのにここが表示されるなら、プリンター側のセキュリティ設定(ICMP拒否)や、印刷ポート(LPR/Port9100)の不具合、またはPC側のドライバ設定が原因である可能性が極めて高いです。
② IPアドレスが表示されない、または「無効」な場合
診断:プリンターと物理的に通信できていません。
電源が入っていない、LANケーブルが断線している、あるいはWi-Fi設定が完全に切れている状態です。「PCの前に立つ前に、まずプリンター本体を見に行くべき」という明確な証拠になります。
③ MACアドレスが想定(本体ラベル等)と違う場合
診断:IPアドレスの重複(衝突)が発生しています。 これがARP確認の最大のメリットです。別のPCやスマートフォンに同じIPアドレス 192.168.1.50 が割り当たっている場合、PCは間違った相手のMACアドレスを覚えてしまいます。
【応用】ARPが使えないケースと解決のヒント
ARPは非常に便利ですが、以下の環境では注意が必要です。
- ルーター(L3スイッチ)を越えている: ARPは同一LAN内(レイヤー2)の仕組みです。別の拠点にあるプリンターに対しては arp -a では確認できません。
- 無線LANの「プライバシーセパレーター」: 公共Wi-Fiなどで、端末同士の通信を禁止している設定です。この場合、同じWi-FiにいてもARPは届きません。
解決のための「arp -d」コマンド
もしプリンターを交換したばかりで繋がらない場合は、PCが「古いプリンターのMACアドレス」を覚えている可能性があります。その時は、コマンドプロンプトを管理者権限で開き、以下のコマンドでキャッシュをクリアしてみましょう。 arp -d * これにより、PCは最新の情報でARPテーブルを作り直すようになります。
ping・tracerouteとの違い
トラブルシューティングにおける各コマンドの役割を整理します。
- ping: 相手と「会話」ができるか確認する(レイヤー3レベル)
- traceroute (tracert): 相手までの「道順」を確認する(ルーター越えの確認)
- ARP (arp -a): 同じ部屋(LAN)に「相手が物理的に存在するか」
を確認する(レイヤー2レベル)
pingが通らない場合でも、ARPを見ることで「そもそも機器がいるかどうか」を判断できます。
✅まとめ
ARPは、IPアドレスという「論理的な住所」を、MACアドレスという「物理的な実体」へと結びつける、ネットワークの根幹を支える仕組みです。
- arp -a は、pingが通らない時の「次の一手」として最適。
- MACアドレスが表示されれば、ハードウェア的な接続は生きている。
- MACアドレスが違えば、IPアドレスの重複を疑う。
プリンターに繋がらないというトラブルに直面した際は、まず「相手の姿が見えているか?」を確認するために arp -a を叩いてみてください。これまで見えていなかったトラブルの本質が、数字の羅列から浮かび上がってくるはずです。

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